上りレグの要素は「ブロー」「振れ」「ミート」「カバー」だけです。
スタート時、ほぼ横一列に並んでいる状態から上りレグ序盤は、ショートを走った長さだけ順位が落ちます。
ファーストタックが上艇に阻まれてロングに返せない時もありますが、返すのが遅れれば遅れただけ落ちて、その落ちた順位は、基本的に最後まで取り戻せないと思った方が良いです。
例外的に、アングルを犠牲にしてでもブローを取りに行く49erなどは、小さいショートを我慢してでも濃い海面(ブロー)に向かうことがあります。そのショートの損失が、ブローで取り戻せる保証が大前提です。ショートの小ささと、ブロー効果の大きさを正しく天秤にかけましょう。
また現在の小さいショートが、後からどんどん大きくなる片振れが予想される場合も、小さいうちに先にショートを走っておきます。
これらはいずれも不確定な将来を予想して先に損(ショート)を取るギャンブルであり、例外戦略です。
スタート時はあまり海面を見渡す余裕がないかもしれませんが、時々刻々と変化する海面の状況、特に上マークや左右レイラインの風上奥がどういう変化をしてるのかを常に注意深く、左右の海面を広く監視する必要があります。基本的にブローは、風上奥からレース海面に向かって降りてくるものと、レース海面内で徐々に発達してくるものがあります。
例えば、スタート前は誰が見ても右海面が濃かったものが消え始め、左レイライン奥が濃くなり始めたのをいち早く発見し、一番最初に左に向かった艇が上マークトップを取る場合などがあります。
海面の濃さでは見えない風の強弱もあります。他艇をタップまたはマウスオーバーすると、その艇速と進行角度が表示されますので、参考にしましょう。右海面に向かっている時、遠く左海面に向かっている艇の速度をチェックすることは欠かせません。
また、上位艇や大多数が序盤に右または左に向かっているのは、必ず何かしらの理由(ロングまたはブロー)があります。特に上位艇が単独でタックを返した場合は、ロングが変わったのか、奥に新たなブローが生まれたのか、もしくは単に中央に寄りたいだけなのか、その理由を見極める必要があります。
上り序盤は単純にロングを走れば問題ありませんが、上り中盤以降では、例えば左海面でスタボーロングを走り続けることはレイラインでショートになるリスクが増え続けます。
そのまま回り続ける(振れが大きくなる)風であれば、いったん中央に戻すべきですし、もしスタボーロングがやがて終わりそう or 逆振れ(ポートロング)に変わりそうなら、そのまま左へ走り続けるべきです。
中盤には、振れ傾向を見極めて、自艇位置とリフト/ヘッダを天秤にかける判断をしなければいけません。
左右に変則的に振れて、どちらに振れる、大きくなるか小さくなるかか読めない風では、ショートを甘受して損切りする判断基準として「マークに対するロング」(マークより小さい振れであれば、ショートを先に走る)という考え方があります。
マーク見通しより振れの方が小さくなった時点で、いったんショートを甘受して(損失を確定させて)中央に戻して、それ以上の損失を出さない損切りをするのも一つの手です。
ポートクローズで走っている時は常に「下に並行で走っているポート艇がタックしてきたら」「スタボー艇が来たら」を想定しておかなくてはいけません。
相手艇をタップまたはクリックすることで、相手艇の順位・角度・艇速とともに正確な高さ差を比較する表示が出ます。ミートする可能性がある艇に対して、前を切れるか、切れないかの目星を予め付けておきます。高さを比較するために、俯瞰ビュー(左上の俯瞰レーダーをタップするか、PCは[C]キー切替)を使っても良いです。
ヘッダが入った時点で、下艇がそれを感知してタックしてきたようなら、自分もリーバウを打ってロングへ返すべきでしょうし、右奥にブローが見えているなどポートに伸ばしたいのであれば、効率よくディップすべきです。
J70やF50・Nacra17などベア加速が大きい艇では、ディップで加速し、その惰性でクローズも少し伸びるので、意外と大きいタックロスに比べてディップロスはほとんどゼロに近かったりします。
真上で被せられてブランケに入れられたり、鼻先でリーバウを打たれると、反射的にタックで逃げたくなりますが、+2タックのロスは意外と大きいものです。
本当にその+2タックに見合うほどのブランケがあるのか、いま被せてきた上艇がミートなどですぐにタックでブランケが外れる可能性が無いのか、一呼吸おいてから、+2タックロスを受け入れましょう。
行きたい方向(行かせたくない方向)はタイトカバー、逆はルーズカバーが基本です。
ただし、相手を遅くするためだけの不要なカバーは、不快感・敵意を生むことがあります。下りレグや、他のレースで報復にあわないためにも、カバーは必要最低限にとどめましょう。
カバーから外れたい後続艇が、カバーしたい先行艇とタッキングマッチに突入することがあります。タッキングマッチは、始めるのも終わるのも、後続艇です。
【目的とメリット】
・主導権は後続艇にある。後続艇の唯一の攻撃方法。
・先行艇のカバーを外すこと。
・先行艇のタック・ミスを誘うこと。
【デメリット】
・自分にもタックミスのリスクがある。
・タッキングマッチ中は相手のカバーに入っている時間が長くなり、またブランケ減速中のタックで、逆に差が広がることが多い。
・最大のデメリットは、タイムロスで後々続艇に追いつかれること。
仕掛ける後続艇にとって、タッキングマッチの要諦は「なるべく短時間・最少タックでカバーを外して、タッキングマッチを終えること」です。「先行艇にタックさせること」が目的にならないよう注意して下さい。ダブルタックや、フェイクタックを上手く使いましょう。
特にILCA・J70・AC75などのタックでは必須の操艇として「ベア to ベア(B2B)タック」があります。人によっては「ロールタック」「パワータック」とも呼びます。
自動タックボタンを押す前に軽くベア加速してからタックボタンを押すと、反対舷の同じ角度まで大きく旋回します。タック後も、その少しベアした状態でクローズ最大艇速まで速やかに加速してから、BestVMGでクローズ角度にラフして戻す、という操作です。
この操作を漫然と行っている方も多いと思いますが、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
タック前のベア | タック後のベア | |
目的 | 旋回時間を短縮し、失速を小さくするため | より短時間でクローズ艇速を回復するため |
有効な艇種 | ・旋回が遅い艇種 ・クローズ最大艇速から、さらにベア加速が大きい艇種 | ・加速が遅い艇種 ・失速状態からのクローズ最大艇速へのベア加速が有効な艇種 |
ベアすると、艇速は上がる代わりに、高さは犠牲になります。
例えばF50など、クローズ最大艇速からの更なる加速がさほど大きくなく、また旋回速度も十分に速い艇では、タック前のベアはさほど大きく取る必要はありません。一方でタック後は、クローズ最大艇速を回復するのに極めて時間がかかるために、艇速計と角度を調整しながら、高さを犠牲にし過ぎない、繊細なベア加速が肝要です。
艇種別・風速別のベアタックの要否は、トップセーラーの間でもしばしば意見が分かれますので、VMG感覚や他艇との比較で、その効果と要否を都度判断をすることが大切です。
上記の「加速する」という目的を念頭において、漠然とベア→タックするのではなく、艇速計を見ながら、ベア状態を維持する時間を長くしたり短くしたり、タック前後でベアする深さを調整してみましょう。
通常はベアtoベアでタックしたい艇種でも、下図のような状況では、あえてB2N(ベアtoノーマル)やN2B(ノーマルtoベア)でタックすることもあります。
スターボレイの、少し浮いているスターボ艇の下にポートから割り込みたい場合は、タック時に十分な艇速が無いと、上突破で被せられますし、かといってタック後にベア加速するとレイラインを割り過ぎて入れなくなります。ですので、タック前にのみ十分加速して、タック後は添え舵で自動ベアをキャンセルするB2Nタックが有効な場合もあります。
同様に左振れ下スタ即タックでも、ベア加速状態からタックボタンを押すと、旋回後もベアしてしまいスターボ艇に刺されるので、原則としてB2Nでタックします。
他方でN2Bタックの使途例として、上図のように後続艇が近接している場合にタック前のベアを入れると、タック中に後続艇に刺されて13条や10条が取られる場合があります。ベアせずにタックボタンを押下して、後続艇をかわした旋回後のみ、失速状態を回復するためにベアすることもあります。
F50で他艇との競り合いで高さを犠牲にできなかったり、レイラインギリギリのバウンダリタックでも、N2Bを多用します。
スタボロングのポートアプローチなど、ポートレイラインが混みそうな場合は、スタボー権利を主張されるのを想定して、予め大きくオーバーセールしておいた方が安全かつ早く上マークに到達できることがあります。
同じくスタボーロングで止むを得ずポートレイラインに到達しそうな場合、少し早めにタックを返すおことで、ロングが戻った際にオーバーセイルになるリスクを減らすと同時に、マーク周辺でより安全な他艇の右側につける方法もあります。
順位を上げるのは、一艇ずつ抜いていくしか方法がありあせん。特にマナーに問題がない権利主張はやはりすべきです。
ただし上マーク周辺で恨みを買うと、次のダウンウィンドで報復・粘着に逢う可能性が非常に高くなりますので「スターボ」で相手の回避を促すとともに、相手が避け損なったら「Sorry」を忘れずに入れましょう。
さらにオフセット回航後に「後ろに付いてくるであろう」を念頭に、下りレグの防衛策(後々続艇のブランケに入れる位置取りなど)を準備しましょう。
スタボアプローチは、基本的にはジャストが最強です。オーバーすると、下に入られますし、アンダーするとジャストの艇のブランケに入ることになります。
スタボーレイラインにポートで向かう時に、並行して走る下艇にスタボ権利を主張されそうな場合、レイライン直前で思い切って寄って、13条(タック中の権利喪失)または15条(サドンタック)で下艇がタックできなくする方法があります。寄るのが早すぎると、下艇に上し殺されます。
逆にこれを下艇の立場でやられた場合は、落ち着いて相手のベアに合わせて、こちらもベアして、距離を取ってベアtoベアタックしましょう。
難易度が高いですし、リスクも大きいですが、こちらがポートで、スタボー艇が僅かにでもオーバーセールしている様子があるなら、下受けして上し殺す方法もあります。
ただしこれは、タック中に相手にベアされてペナを取られる可能性が大ですし、下過ぎるとピンチが苦しすぎて失速している間に被せられて、マークにも入れず万事休すです。相手艇との間合い、レイラインの混み具合見極めて、後ろにも並び直すこともできない時に、ペナを受ける覚悟で選択しましょう。
スタボー艇の立場でこれをやられた場合は、相手がタック中に当てに行って(13条)を取るか、相手艇がレイラインを大きく割るようなら放っておいても失速 or 入れませんので、上し殺されない約1艇幅の間合いだけ保って並走しましょう。
ポートからスタボー艇の後ろに並び直す場合、判断が遅れれば遅れるほど鋭角の旋回が必要で、極めて難易度の高いボートコントロールを強いられます。
またベアしているときに自動タックボタンをを押すと、反対タックの同じ角度(ベア)まで回り過ぎて、レイラインを割ってしまったり、最悪タックではなくジャイブ方向に回ってしまうプレイングミスが、しばしば発生します。
左右ティラーボタン・自動タックボタン・BestVMGボタンを駆使したボートコントロール手順を予め確認しておきましょう。
何より、並び直しの判断は早ければ早いほど良いです。
ベア自動タックの回り過ぎを防ぐために、自動タックの旋回途中でティラーボタンを当て舵 or 添え舵することで、自動タックをキャンセルして手動タックに切り替えることができます。
逆に、自動タック中に意図せずティラーボタンに触れてしまうと、風位を向いて止まってしまうことがあるので気を付けましょう。
上りレグの基本計画をする上で、左海面が濃いけれど、レグ後半で右振れが予想される場合、つまりブローを取るなら左、シフトを取るなら右に行きたいという海面では、艇種によって適正コースの判断は正反対になります。
その判断の基準になるものが、艇種一覧にある「風速-艇速相関図」です。
たとえばNacra17であれば、風速13ktほどでクローズ艇速は最高速に達し、それ以上はどれだけ吹いても、ゲインはありません。つまり、風速13kt以上のブローを追うのは無意味で、中風以上ではシフトのみを考慮して走る艇種であるといえます。
対して49erやOffshoreRacerなど、風速が上がれば上がるほど艇速も伸びる艇種では、少々のヘッダは我慢してでも、濃い海面に向かったほうがゲインします。風速に応じて艇速が上がる度合い(ブロー感応と筆者は呼んでいます)は、上記チャートの赤線の傾きでも判断できます。
上りでシフトを優先する艇 (カッコ内は上限風速、低い順) | 上りでブローを優先する艇 (ブロー感応が高い順) |
▼弱風以上 ILCA(10kt) Nacra17(13kt) Star(15kt) ▼中風以上 Barcolana50(19kt) J/70(19kt) Formula18(19t) F50 (20kt) | AC75 OffshoreRacer 49er FAREAST28R |
・上表(カッコ内)の上限風速未満では、風速が上がれば艇速も上がります。特に風速10kt以下の微風域においては線の傾きが大きいことから、ラルで失速する度合いが強いことがわかります。つまり微風レースでは、ほぼ全艇種においてシフトを無視してでも、少しでも風が有るところに向かう(ラルから逃げる)度合いが強くなります。
・ブローを優先するといっても、大きいリフトには負けます。「どの程度のヘッダまで我慢して、どの程度のブローを追うか」というバランスを知ることが重要です。そのバランス感覚は、艇種や風速域によっても異なりますので、相関図でブロー感応の強さを見極めたり、逆方向に行った競合艇とのゲイン差をよく観察するなどして、艇種や風域におけるバランス感覚を磨く必要があります。
・上りレグでは上限風速があるのに対して、下りレグではF50とAC75を除く全艇種において、風速が上がるほど艇速が伸びますので、ブロー優先(単純に濃い海面を走る)になります。
チャートを作成した筆者ですら、全艇種・全風域における特性を覚えているわけではなく、シリーズ前には「あれ、この艇種・風域ではどうだったかな」と、上記の相関図とポーラーチャートを再確認しています。ぜひチャートの見方を理解して、こまめにご利用くださいませ。
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