本来のオフセットマークは、ポートアプローチの上り艇と回航直後ホイスト中の下り艇が交錯する危険を回避するための、非常に短いレグです。この短いレグで、他の長いレグと同じぐらい激しく順位が変動します。抜くチャンスと抜かれるリスクの高い、物理的にも内容的にも密度が高いレグなので、技術が問われます。しっかり攻略しましょう。
リーチングレグで激しく順位が入れ替わる要因として、スタート後、全艇が一番最初に一点に集中する1上マークのアプローチと回航で、10条(ポースタ)・11条(上下)・18条(エリア内側優先)・31条(マークタッチ)などのペナルティが大量に発生することがあります。
逆に言えば、混雑する中位~下位の上マーク回航は、多少の大回りをしてもノーペナルティで回るだけで順位が上がるものです。
混雑時には、しっかりと表示をズームして、航路権艇とペナ発生中艇を素早く見極めるか、それが難しければ「君子、危うきに近寄らず」でスペースクッションを取りましょう。
自分が上マーク周辺でペナルティを受けてしまった瞬間、いま自分にペナを与えた相手を恨むよりも、素早くズームアウトして後続艇をチェックして、傷口を最小限に留めることに注力します。
(1) 後続艇が近く、ペナルティ中に追いつかれる場合:後続艇の脅威にならないよう、上側に進路変更して進路を譲ります。下に進路変更すると、後続艇にとっては脅威なので、重ねられてペナ延長される可能性が高いです。こう書くと紳士的ですが、実はペナルティ履行中の艇も、通常時と同様にブランケ攻撃はできるので、抜かれにくくなります。
(2) ペナ残り時間が短く後続艇に間合いがある場合:ペナ解消時に確実に後続艇の下に入れる可能性が高ければ、下に進路変更して、ペナ解消後に速やかに下権利で後続艇をブロックします。
(3) 後続艇もペナを受けている場合:後続艇もペナを受けている場合、基本的に追いつかれる可能性は低いので、余計なことはせず最短プロパーコースで良いです。ただし後続艇の方が先にペナ解消する可能性も想定しましょう。
特に2~3艇上位のペナルティ発生は、その解消見込みタイミングによって、抜き/重ねにかかるために近づくか、防衛策を取るために距離を取るかが変わってきますので、先行艇のペナ発生を現認することが大事です。
先行艇ペナの発生が、比較的遅めの31条(マークタッチ)や、エリア出口での18条(内側優先)であることを現認している場合は、ペナ継続中に追い抜ける可能性が高いです。
他方で、発生タイミングを把握していないペナ先行艇の多くは、回航前のミートによるものが要因で、抜きにいこうと近づいたところでペナ解消し、逆にペナを取られるリスクが高いかもしれません。あやふやなものには近づくべきではありません。
また強風時や高速艇は比較的、ペナ減速の先行艇に追いつきやすいですが、超微風時などはペナ減速と通常艇速がほとんど変わらない場合もあります。無理に追い越しを狙った接近をしない方が無難です。
無理な追い越しで1艇を抜くつもりが3艇に抜かれる、といったことが無いようにしましょう。
特にバウスプリット付き非対称スピン艇である、Bar50・J/70・49erについては、アビームでもジェネカーが使いやすいです。中でもBarcolana50・J/70については、ジブよりジェネカーアビームの方が圧倒的に、加速も最大艇速も速いです。
セイル 変更 | リーチング ジェネカー | 最大艇速到達 | ジブ最速 | スピン最速 | |
Brcl 50 | 65° 3.0s | ◎最も高い65°から張れて、90°以上なら艇速も伸びる。上マーク回航後、少し角度を確保してから早めに上げたい。 | 〇普通 | 80° 8.7kt | 135° 15.0kt |
J/70 | 75° 3.0s | ◎強風時75°~微風時85°からジェネカーが2倍近く速い。積極的に張りたい。 | 〇普通 | 85° 8.7kt | 135° 13.0kt |
49er | 85° 2.5s | 〇70~90°はジブもスピンも遅いデッドゾーン。ジブは65°まで、スピンは100°からを目安に。 | 〇普通 | 65° 12kt | 140° 16.8kt |
FE 28R | 95° 3.0s | △90°ではジブの方が速く、100°ぐらいからスピンの方が速いが、大差ないため深い角度が確保できる時のみ使用。 | × 遅い | 115° 11.8kt | 140° 15.4kt |
Off Racer | 100° 5.0s | △100°ぐらいからスピンの方がやや伸びるが、ホイストと加速に非常に時間がかかる。深い角度が確保できるときのみ。 | × 遅い | 95° 12.5kt | 140° 16.2kt |
Frml 18 | 100° 2.0s | ×100°アビームで、ジブもスピンも艇速差が無いため、積極的に張る必要は無い。小回りが利くジブで良い。 | × 遅い | 90° 20kt | 105° 21.5kt |
Nacra 17 | 100° 2.5s | ×100°アビームで、ジブもスピンも艇速差が無いため、積極的に張る必要は無い。120°取れればスピンが伸びる、 | × 遅い | 95° 25kt | 125° 28kt |
例えばBar50・J70・49erであれば「スタボクローズ45°から、概ね11時方向(+30°)にマークを見通した時点で、ホイスト可能」などの目安を把握しておきましょう。FAREAST・Offshoreの場合は、概ね10時方向(+60°)です。
対して、Nacra17・Formula18のスピンは、リーチングレグには不向きなので、原則としてジブで走りましょう
リアルセーリングではルール違反ですが、上艇を上し殺しながら高さを稼ぎつつ、ホイストできる高さまで上ったら、こっそりホイストして一気にジェネカーで逃げると、アップが遅れた上艇は差を広げられたり、艇によってはジブのままベアして失速します。
上艇の立場でこれをやられそうな場合は「そろそろ下艇がホイスト&ベアするはずだ」という見切りでアップを始めて、逃がさないことが大事です。
特にOffshore Racerの場合は、先行艇が有利にこの技を使えます。アップに5.0秒かかる上に、ラフ状態でスピンが上がると失速リスクが非常に高いので、後続艇が見切りホイストもしづらく、見てから上げても逃げられるからです。
下先行艇がいる場合のジェネカーアビームは大変危険です。ジェネカーアビームは舵が大変重いため、下艇を避け切れなかったり、避けられたとしても、スピンを張ったままラフ回避すると、一気に失速して、再度のベア旋回すらままなくなります。
リーチングでのスピンホイストは、自分がトップの時で先行艇が追いつけないぐらい遠くにいるか、確実に追い越せて上し殺されない下艇の位置関係の時だけにしましょう。
右振れでジェネカーアビームが得意な艇では、上マーク回航直後から張れる場合があります。ですが、上マークタック前やタック中にホイスト作業を始めていけません。
ホイスト作業の減速により、タック中に失速し、スピン角度まで艇がベア旋回しにくくなります。焦らずにスターボにタック完了してベアで加速し始めてから、ホイスト作業を開始するようにしましょう。
極端な左振れでポートロングから上アプローチする場合は、上マークを、2~3艇身やり過ごしてからタックすると、レイラインを割って苦しんでいる艇団を一気にゴボウ抜きできる場合があります。
49erは70~90°の角度がジブもスピンも失速するデッドゾーンです。ジブは65°以下で、スピンは95°以上、できれば110°を確保して張るようにしましょう。
Nacra17はアビームスピンは張れませんが、ジブで概ね70°以上・17ktを超えた辺りからフォイリングし、風切り音とともにヒールがフラットになり加速します。
スタボレイラインをオーバーセールした際など、60~65°など中途半端にノンフォイル角度内で落として直進するよりば、オーバーセールのまま54°クローズで高さを稼ぎ、70°(クローズの+20°方向)にマークが見通せたら、一気にベアして、フォイリングさせましょう
OffshoreRacerは、ホイスト作業が5.0秒と一番時間がかかるので、風速に応じたホイスト開始場所を覚えておきましょう。下図は中~強風の場合ですが、微風はもう少し遅なります。
なおOffshoreRacerはリーチングで張ってもあまり加速しませんが、時間をかけて加速した後の最大艇速はスピンの方が速いので、もしオフセットマーク前に100°以上のアングルが得られるようなら、オフセットマークより少し手前からベアウェイセットして、回航後に他艇がホイスト失速や、加速に時間がかかっている間に少し抜きん出るのも一手です。
18条のマークエリアに入る直前に、先行する上艇がラフィングでオーバーラップを切ることができます。ちなみにVRIにおける18条マークエリア境界は、厳密には外側点線の外縁のようです。
この際、クリアアヘッド・クリアアスターンの判定は、「外側艇または内側艇、どちらかが先にエリアに入ったタイミング」で判定されます。
なおこのラップ切りはオフセットマークだけではなく、下マークでも有効です。
このラップ切りは、基本的に近ければ近いほど切りにくいので、上艇は下艇から予め少し間合いを取ることが必要です。逆に下艇は、ブランケとの兼ね合いで寄る必要があります。
特にランニング角度が深く、ブランケの影響を受けやすいStarとILCAは、回航直後の即ジャイブかノージャイブかの判断で、カバーに捕まるリスクが大きく変わります。
オフセット回航前に、必ず下りレグのロングと、左上俯瞰図などから、どちらの下マーク(またはフィニッシュライン)が高いのかを観察・検討して、回航後すぐに大きくラフしながらそちらに逃げれば、後続艇にカバーされる可能性は大きく減ります。
J70・49erを始めとする多くの艇が、ランニングはブローを中心に走りますが、海面が薄くブローが読み取れない場合は、リーチングを走りながら風速を確認し、右海面か左海面か(即ジャイブかノージャイブか)を決めましょう。
上マーク編でも触れましたが、自動タックボタンはティラーボタンより旋回が早いメリットがありますが、デメリットとして、ラフやベア中に押下した場合、反対タックの同じ角度まで回るため、あたかもブローチングのように回り過ぎる場合があります。
これらの特性を逆に利用し、ベア中に水平(90°)を超えた時点で自動タックボタンを押すと、ベア&ジャイブ方向に急旋回がかかります。ブームが返った後に、当て舵(右ティラー)または添え舵(左ティラー)することで、旋回がそこで終わり、すぐにBestVMGを押すと、最速でポートランニングに回航&即ジャイ完了できます。
フリートレースでは普通は行われませんが、チームレースの戦術として、直後の敵チーム艇を足止めして、さらに後ろの味方艇を追いつかせたり、抜かさせたりするための「マークトラップ」という技術があります。
マークトラップを行うコツは、上マークまたはオフセットマークから下にギリギリ入られない一艇幅ぐらい上に止まり、敵艇が近づいてきたら、完全に停止するのではなく、すぐに旋回できる程度の艇速を残しておくことが大事です。
マークトラップが予想される後続艇は、大きくオーバーセールして上を通るか、トラップ艇が前にでた隙に、急旋回して下に潜り込みましょう。
ごく稀にフリートレースでも、逆上している先行艇などがチームレースの知識を持っている場合に、この「マークトラップ」の状態で停戦していることがあります。この場合は、珍しいものを見物するつもりで諦めましょう。
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